ARDILA
ブリュネ×カズヌーブ
la clef des songes
カズヌーブには手を握り締めて寝る癖がある。ブリュネには赤ん坊のようで愛らしいと思う限りだが、爪が掌に食い込んで血が出る一歩手前まで行ったことのあるらしい本人は、それなりに悩んでいるようだった。そして、今夜もブリュネのベットへお泊まりに来たカズヌーブは、やっぱり手を握り締め眠っている。すやすやと穏やかな寝息に反して、ギュッと握り締められた手は何か離すまいとしているようだ。
「ああ、また力いっぱい握り締めちゃってまぁ…」
これでは明日の朝には爪の痕がくっきりついているだろう。眠るカズヌーブの横で頬杖を付き、その握り拳を、指で突付いてみるが開く様子は無い。いずれ血が出て痛ければ自分で起きて解くような気もするが、それでは遅い。部下で射撃の名手でもある彼の手が傷付くのが困るのは元より。例え彼自身だろうが、彼に傷を付けるのは許せない。仕方ないので、ブリュネは一本一本、丸まっている指を開かせていった。
「ん…ぅ」
「お、」
すると、カズヌーブは開いた指で、ブリュネの人差し指をきゅっと握り締めてくるではないか。ブリュネの指を固く握って、どこか満足気に吐息すると、そのまま手を引き寄せてより深い眠りに落ちていく。手を触られると、反射的に掴む赤ん坊のような仕草に、ブリュネは一瞬全ての動きを止めた。
「え、ちょ、なにこの可愛いの、どうしたらいい!?どうされたいの…!?」
そして、独り悶えるブリュネの横で、カズヌーブは幸せな夢を見る。
Baiser Baiser Baiser
毒でも塗ってあるんじゃないかと、俺は、ブリュネとキスをする度にいつも思う。例えばそうやってこの男が俺を殺そうとしていたら、俺は即死する。夢中だから
「苦い」
「葉巻が?」
「えぇ」
「やめるか?」
「いい、慣れました」
でも苦味がある度に、毒でも塗ってあるんじゃないかと思ってしまう。
葉巻の甘い匂いを嗅いで、余計に、なんか、ドキドキしながら舐めたり挟んだりして。もしかしたら、それを期待していたりするのかも。
いや、それはないか。
でも、キスをして死んでしまうなんて、それは、死に方としてはとても素敵だろう。少なくとも、鉛玉に身体を貫かれるよりはずっとマシ
「キスの最中に考え事か」
「夢中だと、毒されそうですから…」
俺は、毒でも塗ってあるんじゃないかと思う。
腰が碎けるくらいに。