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大野×安富

今日も今日とて
 

--好きです。

その言葉を出し惜しみせずに、例えば、「腹減った」や「疲れた」と同じように使える人間もいれば、逆に、清水の舞台から飛び下りるような決死の覚悟をしなければ口に出せない人間もいる。
どちらかと言えば俺は後者のタイプだと思う。
清水の舞台とまでは言わないが、たやすく、好きだとか愛してるとか、そういう言葉を使うことはできない。使う時には少なからず勇気がいる。

あぁ、どうしよう。勇気は無くてもやっぱり好き過ぎて好き過ぎて、頭も心も爆発してしまいそうだ。こうして隣にいるだけで、きっと体温は2度くらい上がっているに違いない。発熱だ。寧ろ高熱に近い。薬を飲んで下がるものなら、誰か早くそんな治療薬を作ってくれまいか。今の俺には、雪に埋まるくらいしか解熱の方法は見つからない。


「安富…」

「ん?」

何も気にしてませんよー、な顔で視線を合わせた。そうそう、こんなのは日常会話なんだから、いちいち意識なんてしてられない。なんでもないですよー、と思いたいのに、けれど俺を見つめる瞳に自分が映っているのを見たら、頬にますます熱が集まっていくのが分かった。
ああぁぁ…マズイだろう、俺。


「なんだよ」

「あー……あのさ…」

声は、震えてないよな。さすがにそれはカッコ悪い。絡んだ視線は外されない。嬉しいんだけど、口から心の臓やら何やら出ちまいそうだ。ヤバイ俺。それより何より、この距離感。なんでこんな近くに座ったんだろ、俺。妙に近くて相手の息遣いまで聞こえてきそう。
ふいに下げた視線の先には、赤い唇。

口吻、したい…。




「夕飯!く、食うか!」

「あぁ、…そうだな」

ああああもぉっ!



 

今日も今日とて
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