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答える代わりに、彼は軽く微笑んでみせた。

Instead of answering, he smiled lightly Mise.


学者と言う奴はどれもこんな奴なのか。

もう何度目か幾度か、寧ろ今となっては常々に思っているような感想を心中で改めて述べ。向かえの位置に座り、眈々と本を読み続けている上司を見た。

自分に課せられた物は既に一段落しており。筆を止めた手で煙草を燻らせつつ、何の気無しに向かい側の男を伺う。

本を読み、時折に何事かを呟きながら細い顎に手を添えて考え込む素振り。その後、手元の手帳に何かを書き頁を捲る。

まるで簡単なカラクリの玩具のように、同じ事をただ繰り返す。ほんの僅かな表情の変化としては時々、眉が吊り上がった険しい顔をしたり。思い悩むような難しい顔をする。

それを暫く、紙煙草が一本吸い終わる間は見ていたが、煙草が終わってそれを灰皿で押し消した後、土方は、まぁココで椅子を揺らそうが、例えば声を掛けたとしても気付かれなさそうなほど相手は集中していそうだが、一応音を立てずに部屋を出た。





それから、


「大鳥さん」

静かに、不意に、机上に開かれている本の頁に掌を置き遮った。急に突き出た障害に一瞬目を見開き直ぐ、不満気に満ちた視線が見上げて来るのを受け止める。


「俺の言いたい事、分かるよな?」

「……なに─…」


何かを言おうと口が開いたのに重ねるよう土方は言葉の代わりに、口許に曲線を柔く浮かべた


「…君は、まったく…」

小さく溜め息を吐いて眼を伏せる。



「俺ァアンタの部下だし」
「……気が利くと言うよりも、君は策士だ」
「褒め言葉か?」

ちゃんと切りの良い所を見計らって来るとか、その顔に刻む笑みに何も言い返す事が今まで出来たためしがないとか、全て見透かした上で部下だとか言い張って、皮肉も通じないとか、
自棄になって大鳥は側に置かれたカップに口を付けた

「っづ!?…苦ッ、」
「そうか?礼も苦情も中島に言ってくれ。起きてたから煎れてもらった」
「………。君が煎れたんじゃないのか。だから君のはお茶なのか…」

嫌がらせのように…いや、実際、嫌がらせなのかもしれないくらい苦い喉ごしに眉を深く寄せ一息付けば体が忘れてしまっていた疲労を漸く意識的に認識する



「飲んだら寝るだろ?」


「それ睡眠の意味かな?」


「俺は、どっちでも構わねぇけど?」



答える代わりに、大鳥は軽く微笑んで見せ。
なめらかな曲線を描く口許で、それをゆっくり飲み干した。


 

答える代わりに…

疲れた時は甘いもの

The sweet thing when you're tired

「大鳥さん。こっち判子」

二人して書類執務の途中、土方が新たな煙草に火を点けふうと一服しながら顔を上げた。

「おーぅ」

んー、と伸びをした大鳥は、ついでとばかりに大きく一つ欠伸をし。そのまま、卓上にパタリと倒れ込む。

「……判子」

横目でちらりとその様を見た土方は口先ではそう言いながらも、急ぐ事ァねェや。と天井に向かって紫煙を吹き掛ける。

「押しといていいぞ」

随分と適当な事を言いながら大鳥は上着の胸ポケットから飴玉を取り出し机に突っ伏したまま包みを開け口に放り込んだ。途端に大鳥の口元から甘い香りと飴玉がカラコロと歯に当たる音がする。

書状確認する気ねぇなァと呆れながらも見ていれば、見上げた視線で大鳥は「ごめん。コレ一個しか無い」と呟いた。

「自分で買ったのか?」

知りたい訳でもなかったが、他愛ない話の糸口にと尋ねると「あぁ」と短く答えが返ってきた。

「懐かしいな」

と呟いて味わう大鳥。そうして再び沈黙が訪れた。

土方は短くなった煙草を灰皿に押し潰し大鳥を見た。飴玉が舌に絡まれカラカラ鳴っている。


「憎いじゃねぇかェ、お父さん」
「いや、思わずなぁ…」

クツクツ喉を慣らす土方に、大鳥は目を細め苦笑して

「欲しいか?」

言って大鳥は前歯で器用に飴玉を挟み、顎をしゃくるよう喉を晒した。

煙草でいがらっぽいんだ、丁度いい。土方は、大鳥の顔を覗き込むよう体勢をずらした。誘うように眇めていた瞳が伏せられ、唇が薄く緩む。その大鳥の口に、遠慮なく土方は親指と人差し指を突っ込んで飴玉を探り、掴み出した。

「がふっ。ちょっ」

ここは甘いキッスで口移しだろ!?何その追い剥ぎ行為!と、大鳥が目を剥きながら口元を拭い、体を起こすのを満足気に眺めながら土方はぽんと飴玉を口に入れ親指を舐めた。

「まったく君は。ウチの子だってそんなマネしないぞ」
「知るかよ」

大鳥はその手首を取ると、土方の濡れた指を舐め。
そして悪戯に笑って見せる


「手を汚すんじゃない」
「ヘイヘイ、お父さん」

掌を髪にくしゃっと押し付け土方も笑い返した。
 

疲れた時は甘いもの
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